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デッスンの個人日記

デッスンの個人日記

詩集1 いつまでも・・・

あのとき オレは 走り出した
故郷を出て 走り続けた
野を越え 丘を越え
海を渡り 山にも登った
たまには休むことはあったけど
歩みを止める事は無かった

だが ある日・・・
オレは 足を止めた
休むためではない
ましてや 行く当てが無い訳でもない
もともと オレには行く当てなど無いのだ
ただ 単純に足を動かし
走ることに専念していただけなのだ
そんなオレが 足を止めた
首を左右に振り 横を見るが
誰も居ない
後ろを振り返るが
やはり 誰も居ない・・・

オレはその場に座り込んだ
座っていると 時間の感覚が分からない
何秒かもしれない
何分・・・何時間・・・何日かもしれない
オレは長く座っていた
立ち上がり歩こうとしても
足は動かない
もはや立ち上がることすら出来ない
オレは座ったまま 動かない

そんな状態が長く続いた・・・

そして またあるとき
オレの目の前に女性が立っていた
いつからそこに立っているのだろうか?
今まで何人もの人が目の前に立っていたが
すぐにどこかへ行ってしまった
だが 彼女は違う
ずっとそこに立ち 俺のほうを見ている
なぜ オレを見る?
オレは彼女を見上げた
彼女の口は動いていた
話している?
誰に向かって?
・・・・・オレに?
そう思った瞬間に 彼女の声が耳に入った
最初は何を言っているのかわからなかった
いや・・・わかる必要は無いかもしれない
彼女は楽しげに話している
久しぶりに 笑い声を聞いた
前に笑い声を聞いたのはいつだろうか・・・
思い返せばある女性を思い出した
あ~あのときか・・・

オレが故郷に居た頃
オレの隣にはいつも彼女が居た
彼女はいつも笑顔で 俺のそばに居た
どこへ行こうと いつも一緒だった
楽しかった
毎日が楽しく・・・しあわせだった
しかし ある日突然
彼女はこの世を去った
同時に オレの時間は止まった
そしてオレは 走り出した
忘れるために・・・走り出した
だが 忘れることが出来なかった
だから走り続けた
いつしか 忘れることが出来た
しかしそれは違ったのだ
オレは 思い出を封じてしまっただけなのだ
彼女と過ごした 楽しい日々
彼女のきれいな 笑顔 声
忘れてはいけない大切な思い出を
オレは封じてしまっていた
それを目の前の女性は取り戻してくれた

オレは 目の前の彼女を見上げた
彼女はいつまでも話している
オレは しばらく彼女の声に耳を傾けた
彼女はいろいろなことを話していた
仲間のこと 旅のこと
嬉しかったこと 哀しかったこと
いつまでも話している
その話を聞いていると
オレのこころに安らぎを感じた
安らぎを感じ・・・俺は笑った
笑うことが出来た
前みたいに笑うことが出来た
オレの微笑を見た彼女は
おどろき そして よろこんだ

いつしか オレも口を開いていた
故郷のこと 彼女が死んだこと
オレが走り出し ずっと走っていたことを・・・
憂鬱にはならなかった
むしろ 安らいだ
話を終えると 彼女は手を差し出し
いっしょに行こう
と 言った
オレの手は 自然に動いた
動き 彼女の手を取った
取った瞬間にある変化があった
足が動いた
今まで立つことすら叶わなかった足が
動き そして立った
自然に・・・

立ってみると 多くの人が集まった
温かかった
熱いくらい 温かい
温かい波は 俺をやさしく包み
やさしく 押し流した
オレは流れに乗るように
足を前に踏み出した
走ることは無かった
一歩一歩・・・確実に・・・
今を確かめるように
ゆっくり歩く
とてもゆっくりと・・・
彼女と手をつなぎ ゆっくりと歩く
彼女は微笑み オレも微笑んだ

世界は広かった
広すぎるくらいに広かった
どこへ行けばいいのか分からないくらいに
だが 道標など要らない
どこへ行こうとみんなが居る
彼女が居る
だから 歩いた
まっすぐ ゆっくりと歩いた
どこまでも続くこの大地を
みんなで・・・
彼女と共に・・・

いつまでも

いつまでも・・・


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